卯月ユウトの読書日記

読んだ本を記録する、読書好きの交流の場です。

青春小説の新定番 - 「オルタネート」加藤シゲアキ 著

目次

はじめに

皆さんこんにちは、卯月ユウトです。

今回はアイドルグループ・NEWSのメンバーでもある加藤シゲアキさんの「オルタネート」の感想・レビューを書いていきたいと思います。

この作品は2021年に吉川英治文学新人賞、高校生直木賞を受賞し、さらには直木賞候補にもなったことで話題を呼びました。私も以前から気になってはいたのですが、昨年満を辞して文庫化されたのをきっかけに購入した次第です(その後忙しくてずっと積んでいたのですが……)。

それでは、そろそろ本題に入っていきたいと思います。

感想

まず、「オルタネート」というのは作中に出てくる高校生のみが使えるSNSのことです。このSNSは現在の社会には存在しないものなので、序盤にはどんな機能があるのかなどアプリの仕様の説明にかなりの文量が割かれています。これが理解できれば、作品を楽しむ用意は万端です。

 

この作品には調理部部長の新見 蓉(にいみ いるる)、オルタネートを信奉する伴 凪津(ばん なづ)、高校を中退して居場所を探す楤丘 尚志(たらおか なおし)という3人の主人公がいます。この3人の物語が並列で進んでいき、その中で伏線が散りばめられ、最後に収斂していく。その様がなんとも心地よく、読んでいて面白かったです。

先の3人はオルタネートとの付き合い方も違います。すごく簡単に書くと、

  • オルタネートをやりたくない蓉
  • オルタネートをめちゃくちゃやりたい凪津
  • オルタネートをやりたくてもやれない尚志

という感じです。それぞれの視点で考えてみると、オルタネートというSNSの便利さだけでなく誹謗中傷などの負の側面も実感できます。それはX(旧Twitter)などの実際のSNSでも同じで、誰もが便利さを享受すると同時に中傷の的になる可能性があるのです。

そうした『自分ごととして考え』ながら読めるというのも、この作品の楽しめる点、楽しみ方なのではないでしょうか。

 

また、“SNSを作品の軸に据える”というのはすごく先進的なようにも思えます。

が、読んでみると描かれているのはあくまで高校生の葛藤や苦悩でした。つまり、昔から脈々と受け継がれている思春期の心を切り取った青春小説なのです。

現在の若者世代だけでなく、青春時代を過ごしたことのあるあらゆる世代の人たちに読んでほしいですし、きっと自身の青春時代を思い出しながら楽しめると思います。

 

さいごに

今回は、加藤シゲアキさんの「オルタネート」について感想を書いてきました。

著者は「なれのはて」(講談社)で2023年下半期の直木賞候補作にも選ばれました。惜しくも受賞は逃しましたが、今後ますます作家として注目されていくことでしょう。

加藤さん作品を読むのは「オルタネート」が初めてでしたが、とても読みやすくそして面白かったので、他の作品も読んでみたいなと思いました。

それでは、また。

謎は残ったまま - 「となりのナースエイド」知念実希人 著

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はじめに

皆さんこんにちは、卯月ユウトです。

2024年最初の一冊は、本日1月10日より日本テレビで放送スタートする川栄李奈さん主演のドラマ『となりのナースエイド』の原作小説です。

著者の知念実希人さんは私が好きな作家の一人でして、今回の作品で12作読んだことになります。代表作である天久鷹央シリーズはまだ読んでいませんが、すでにシリーズで計10冊以上刊行されているので読み始めるのには結構勇気が要りますね……(きちんと購入はしています)

では、そろそろ「となりのナースエイド」の感想に移っていこうと思います!

 

※作品の結末に触れる部分があります。

 

感想

まずタイトルのナースエイドとは、日本の言葉で言うと看護助手。医療行為をせず患者の身の回りの世話などをして寄り添う仕事です。主人公・桜庭澪(さくらばみお)はナースエイドとして、万能細胞・火神(ひがみ)細胞を生み出した火神教授率いる統合外科に勤めることとなります。

天才外科医・竜崎大河(りゅうざきたいが)と衝突しながらも患者に寄り添っていく出だしを読み、以前ドラマ化をされた「祈りのカルテ」のように主人公が困難にぶつかりながらも成長していくストーリーかと思ったのですが、全く違いました。裏表紙の説明文にある通り医療サスペンスでした。

 

この物語の核となるのは、実は澪は外科医でありとあるトラウマから医療行為ができなくなったということです。そのトラウマとは、澪の姉は難治性の癌に侵され、澪が勧めて執刀した手術ののち、生き甲斐であった記者としての仕事ができず命を絶ってしまったというもの。

トラウマを克服するために姉の死の真相を追う澪ですが、そこには火神教授の秘密が大きく関わっているとわかって……というようなあらすじです。

 

率直な感想としては、「とても楽しんで読むことができ良い作品だった」です。ナースエイドという職業について知ることもできました。

第1章「ナースエイドのお仕事」での定森看護主任の言動は非常に目に余りただのパワハラだろと思ったり、澪が脊髄反射かというほどすぐに熱くなりすぎだろと思ったり……etc。物語が姉の死の真相に迫る段階に差し掛かるとそんな感想を持つ余裕もなくなりましたが。

 

新興宗教の教えから娘の手術を拒否する母親など、時事ネタを取り入れたところも面白いなとは思いました。が、正直なところ作品全体的に話を広げ過ぎたのではないかな、と。

スピード感があって読みやすいのですが、反面一つ一つのエピソードが結構淡白に終わっていく印象があり、もう少し詳しく書いてほしい!というシーンも多々ありました。

また、火神教授の研究(オームス)や急速に増殖した癌細胞など、まだまだ残された謎は多いです。

 

最後、澪がナースエイドと外科医の二刀流として働き始めたことが描かれ、一旦は物語の終わりとなっています。しかしながら多くの謎が残されているので、今後これらを回収する続編があるのかな?と期待してしまします。

 

さいごに

ここまで、知念実希人さんの「となりのナースエイド」の感想を書いてきました。

“はじめに”でも書いた通り、いよいよ今日22時にドラマがスタートします。澪と竜崎のこの物語がどう映像化されるのか、私も原作者ファンとしてしっかり見届けようと思います!

皆さんもぜひドラマと合わせて原作も読んでみてください。

それでは、また。

推しは“背骨”である - 「推し、燃ゆ」宇佐見りん 著

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はじめに

皆さんお久しぶりです。

私、卯月ユウトは2023年春に就職をしたことでなかなか本を読む機会を作れず、そしてブログ更新をする時間もなく、気づけば夏も終わりという頃合いになってしまいました。

さて、今回は芥川賞の受賞でも大きな話題となりました、宇佐見りんさんの「推し、燃ゆ」の感想を書いていきたいと思います。

※他の記事ではここで書影を掲載するのですが、いつも利用している版元ドットコムで使用不可となっていたため掲載しません……

 

感想

この作品を読んでまず感じたのは、『主人公(あかり)に全然共感できない!』ということ。近年、特定のものや人を応援すること=推し活が何かと話題になっていますが、とにかくあかりののめり込み方が尋常じゃないです。

私にも好きな歌手(例:back number)がいますけど、あかりのように崇拝しているような感じではないし、彼らが生きがいというほどでもないです。←もちろん新曲が出れば嬉しいし、CDやグッズも買うし、ライブも行きますが

あかりの推し活は、もはや生活そのもの。推しを推すことが生き甲斐。彼女に言わせれば推しが“背骨”だそうだ。“推し”の炎上から始まるこの物語、生き物が背骨を失うと生きていけないように、あかりの生活はどんどん荒んでいきます。そんな生活が、第三者目線ではなくあかりのモノローグで描かれていて、「こういうものなのだ」と拒否できない送りつけ商法のように目の前に突きつけられます。

先にも書いた通り、私はあかりの狂信的な推し活を理解することはできませんでした。それでも、こういうものなんだと言い聞かせると、意外にも楽しく読むことができました。

 

って、何を書いているのか私自身でもわからなくなってきました笑

あかりの熱量が移ってしまったのでしょうか?

 

最後のシーン、あかりの心の中は何か変わったのだろうか。推しの炎上と引退を通して、果たしてあかりは殻を脱ぎ捨てて踏み出していけるのか……気になります。

 

さいごに

さて、ここまで宇佐見りんさんの『推し、燃ゆ』の感想を書いてきました。

あかりの推しへの熱量には終始ついて行くことはできませんでしたが、さすが芥川賞受賞作、斬新な切り口、表現で面白かったです。

推し活とはどういうものなのかを知る入り口として読んでみるのも良いかもしれませんね(凄くハードな推し方ですが……)。

それでは、また。

フィクションでありノンフィクションである...... - 「機械仕掛けの太陽」知念実希人 著

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はじめに

皆さん、明けましておめでとうございます(遅い!)。前回の更新からすっかり時間が経ってしまいました……。というのも、私は今年度で専門学校を卒業し、就職するという段階でして。無事に内定をいただきまして、その企業の研修がすでに始まり忙しく読む時間が確保できなかったのです。年末年始で久しぶりに時間ができたので、積読本を読んでいるというわけです。

そして今回は、医師でもある小説家・知念実希人さんがコロナ禍を描いた小説「機械仕掛けの太陽」の感想を書いていきたいと思います。

感想

この本の感想は「リアルだな」の一言に尽きます。

ブログのタイトルにもした通り、実際のコロナ禍の時系列(ノンフィクション)に合わせて医療現場で働く

  • 大学病院の勤務医でシングルマザーの椎名梓
  • 椎名と同じ病院に勤務する20代の看護師 硲瑠璃子
  • 引退間近の70代の町医者 長峰邦昭

この3人(フィクション)の視点で描かれた半ノンフィクション小説です。読んでみて思うのは、こういう人たちって日本全国の至る所に、自分のすぐ近くにもいるのだろうなということです。

先日インフルエンザの予防接種を受けにかかりつけの医院に久しぶりに行った時、防護服を身につけた看護師の方が駐車場の車にいる発熱患者の検査をしていたことを思い出しました。年末年始が過ぎ、成人式がありと新型コロナウイルスが世間の人々の意識から薄れつつある今でも、懸命に戦ってくれている医療従事者はたくさんいるのです。そういった方の負担を減らすためにも、しっかりと感染予防はしないといけないなと改めて思いました。

 

もちろん、過度に自粛するべきだとは私は思いません。飲み会をしたって、旅行に行ったって、やりたいことをやればいいでしょう。私自身、音楽ライブに足を運んだり、同窓会に参加したりはしていますから。QOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)を維持するためにも、そのような楽しみは必要不可欠です。

しかしながら、作品内で描かれているような医療従事者への差別・偏見・脅迫を含んだ反コロナ、反マスク運動はやめてほしいです。一方的・攻撃的に煽動するのではなく、きちんと議論していくことでしかコロナ禍の出口は見えてきません。

 

※初版のためか、一部 誤字・誤植がありました。ちょっと残念です。修正されますように……

 

さいごに

ということで、今回は知念実希人さんの「機械仕掛けの太陽」の感想を書いてきました。

医療現場でどんなことが起きていたのか、起きているのかが、現役医師によって非常にリアルに描かれた良い作品でした。

それでは、また次回の記事にて。

逆境に争う正反対の2人 - 「アキラとあきら」池井戸潤 著

はじめに

今回は、池井戸潤さんの『アキラとあきら』の感想を書いていきたいと思います。

感想

町工場の社長の息子である山崎瑛と、大企業の社長の息子である階堂彬。2人のアキラがともに銀行マンとなり逆境にあらがう青春ストーリーです。

まず一番に思うのは非常に面白い、ということです。

この作品は上下巻合わせて700ページ以上もある長編ですが、全然その長さを感じませんでした。ひとえに、池井戸潤さんの人間模様の描き方が非常に良く、自分ごとのように入り込めるからだと感じます。

私は銀行マンの仕事を詳しくは知りませんし(私の父はごく一般的な会社員で、母はパートタイムで働いています)、投資・融資についても全くと言って良いほどに知りません。もちろん、その仕事の際の用語も知りません。この『アキラとあきら』の中にも度々聞きなれないワードが散りばめられていますが、きちんとことの背景や経緯が描かれているために噛み砕き、理解することができました。

特に、不動という人物存在が面白いなと。その名の通り動かない、確実性のない融資はしないという信念を持った人物です。この不動をどのようにして動かすのか。最終章で瑛が不動に訴えかけるシーンは非常に読み応えがありました。

さいごに

この作品は今年、竹内涼真さん、横浜流星さん主演で実写映画化され大ヒットしました。

私も鑑賞しましたが、非常に面白かったです。原作を読んだ人も、そうでない人も、ぜひ観ていただきたい作品です!

※なお、主題歌は私が一番好きなバンド・back numberが担当しています

それでは、この辺で。

youtu.be

誰かの支えになること - 「今夜、世界からこの恋が消えても」一条岬 著

目次

はじめに

皆さんこんにちは、卯月ユウトです。

今回は、一条岬さんによる青春小説『今夜、世界からこの恋が消えても』について書いていきたいと思います。

この作品は第26回電撃小説大賞で《メディアワークス文庫賞》を受賞した『心は君を描くから』を加筆修正の上 刊行されたものです。累計発行部数は50万部を突破しています。

それでは、感想に移って行きたいと思います。

 

感想

この作品は、高校生の僕(=神谷透)と事故によって前向性健忘を患った日野真織の青春ストーリーです。

前向性健忘というのは記憶障害の一つで、障害が発現した時期が明確でそれ以降の情報の記憶障害が起きるものをいいます(障害発現以前の記憶がなくなるものは逆行性健忘といいます)。

記憶が無くなってしまうことをテーマにした小説や映画は多数あり、有名なところでいうと『50回目のファーストキス』だったり『博士の愛した数式』だったり。私の好きな作家・沖田円さんのヒット作『僕は何度でも、きみに初めての恋をする。』も、記憶が1日しか保たない男の子がメイン人物となっています。というように、よくある設定ではあるわけで、どうやって差別化していくのかというのが重要になってきます。

電撃小説大賞最終選考委員の作家・三上延さんが、

前向性健忘という使い古されたアイディアに最初は悲観しましたが、いい意味で期待を裏切られました。ハイレベルな青春小説です。

 - 本書帯より -

と評しているように、物語終盤で一気に様相が変わりました。後半の物語の運び方が、選考でも評価されたのだろうなと感じました。その辺りは是非読んで味わってください。

 

また、この作品を読んで強く感じたのは、『誰しも他の誰かの支えになっていること』です。

何のために生きているのかわからない、自分は必要じゃないのではないかと感じるという声をネット上などで目にする機会があります。でもきっと、その人の周りにいる人にとっては、その人がそこにいる事で何かが生まれていて、その影響力に当人は気づいていないだけなのでしょう。この物語でも、真織は気付かぬうちに透にとって大切な人になっていたし、その逆もあったのです。

私も、今繋がっている人(学校の友人や先生、親族など)との関係を大事にしたいと思いましたし、しなければならないんだと強く思いました。かけがえのない“今”を精一杯楽しみたいです。

 

さいごに

ということで、今回は一条岬さんの『今夜、世界からこの恋が消えても』の感想を書いてきました。非常に良い青春小説でした。

下記リンクより購入することができます。気になった方はぜひこの記事にスターをつけるとともに、書籍を購入して読んでみてくださいね。

 

また、真織の親友・綿矢泉が主人公の続編『今夜、世界からこの涙が消えても』も発売されています(私も未読なので読んでみようかな……)。

 

なお、なにわ男子の道枝駿佑さんと女優の福本莉子さん主演の実写映画が絶賛公開中です。映像で観てみるというのも良いかもしれませんよ(私は映画も見に行きました)。

youtu.be

それでは、この辺で。

甘くて切ない恋の物語たち -「ケーキ王子の名推理6」七月隆文 著

目次

はじめに

皆さんこんにちは、卯月ユウトです。

このブログで最初に取り上げる本は、七月隆文さんの大人気シリーズ作品の最新刊『ケーキ王子の名推理6』です!

名推理と書いて「スペシャリテ」と読むんですよ〜。

私は七月さんの書く優しくてスッと入ってくる文章がすごく好きでして。新刊が出る度に喜び勇んで書店へ買いに行く作家さんの1人なんですよね。

 

とまあ、前置きはこれくらいにいして、感想を書いていきたいと思いますね。

 

感想

12月になり浮き足立つ未羽、その隣には颯人。

そんなシーンから始まる。いつの間にやら2人は下の名前で呼ぶようになっている、、、『おうおう、羨ましいじゃないか』などと、1巻から読んでいる私はどこか2人の親戚のおじさんのような感覚になるのです。

 

そうそう。この6巻はそんな未羽と颯人だけではなく、若干 険悪気味だったあの2人や、未羽の親友の淡い恋が描かれており、終始 先のような身内の恋バナをしているようななんとも言えない心地がありましたね。個人的には大人の恋(青山さんとカロリーヌ)の続きも知りたいなあとも思いつつ。

そして、恋だけでなく颯人の挑戦にも大きな進展があって。最後にはなんかちょっとほろ苦い感じが残りましたけど、、、その辺りはぜひ実際に読んで確かめてほしいです。

ちなみに未羽の怒涛の食レポは少なめです。それでも、ところどころで未羽がする食レポはあの独特のワードセンスがこれでもかと光っているし、その食レポが思わぬ夢への突破口に繋がっていたし……。大きな夢を追う颯人の隣で、未羽も自分の目標を見つけられたようで良かったです。

 

やはりと言いますか、各章最後にある中原薫さんが手がけるスイーツのイラストは相変わらず美味しそうでした。ミゼラブルにパンケーキにポン・ヌフ。本当にそそられます。

 

5巻までで広げられた伏線の回収もかなり進んで、しかも最後には『未羽と颯人の物語は、いよいよ佳境を迎える。』なんて書いてある。ということはあと1巻、2巻くらいで終わるということか。いやあ、おじさんまだまだ何十巻でも読みたいです。

恋や夢・目標など色んな方向で登場人物がそれぞれ大きく成長していく、そんな一冊でした。七月さん、楽しいひとときをありがとうございました。

 

さいごに

今回取り上げた『ケーキ王子の名推理6』はお近くの書店のほか、下記リンク(Amazon楽天)から購入することもできます。ぜひぜひ購入して読んでみて下さいね。

今後も、このような形で本の感想を書いていきたいなと思います。少しでもこの記事が良かったよ、参考になったよという方は、スターだったり読者登録をお願いします。

また、この本おすすめだよというのがあれば、どしどしコメント欄にお寄せ下さい。私の今後の本選びの参考にさせていただく他、読者様同士の交流の場となれば幸いです。

それではまた。